東京地方裁判所 昭和43年(借チ)2096号 決定
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〔決定理由〕二、……本件資料によれば、次のような事実が認められる。すなわち本件土地は相手方の所有であるが、申立人は昭和三二年一一月頃、右土地上に本件建物を建築し、同月二八日所有権保存登記をして、現在右建物に妻千枝子と居住している。しかして、申立人の本件土地利用の経過をみると、申立人は昭和二七年頃、相手方の姉娘千枝子と結婚し、昭和二八年七月頃から、本件土地と同筆の土地内にある相手方所有の建物に住んでいたが、昭和三二年に相手方から本件土地に居宅を建てる承諾を得た。そこで、住宅金融公庫から建築資金の貸付を受けることになり、その貸付申請のために本件土地を測量し、坪数三五坪二合五勺の本件土地を申立人が家屋建築敷地として使用することを承諾する旨記載された昭和三二年六月一日付の相手方名義の土地使用承諾書を作成し、相手方名下に押印を受け、これを前記金融公庫に提出して、建築資金の貸付を受けた。また、本件土地は道路に面していないため、昭和三二年六月、相手方の諒承を得て、相手方所有の別紙目録(一)記載の全部の土地が公道に接している部分から本件土地に至る幅員四米の部分について、申立人名義で建築基準法による道路位置指定の承諾書を東京都に提出して、道路位置の指定を受け、その後建築基準法による建築確認を受けて、本件建物を建築した。右建物の建築費用としては金九〇万円余を要したが、その内建築代金の頭金三〇万円は相手方から援助を受けて支払い、その余は、住宅金融公庫から貸付を受けた金四〇万円と自己資金でまかなつた。そして、その後申立人及びその妻千枝子と相手方は隣り合わせに住んでいたが、右千枝子と相手方との仲がうまく行かず、昭和三九年八月頃、一寸したいさかいの際に、右千枝子は、相手方から、「本件建物の建築資金も出してもらい、地代も支払つていないのに勝手なことばかりいう。」という趣旨のことをいわれた。そこでその頃から、友人に近隣の地代はいくら位かを質したうえ、月々金一、〇〇〇円宛を地代のつもりで相手方に持参するようになり、相手方も右金員を手渡されるまま、昭和四三年三月までは受取つていたが、前記千枝子が、相手方とのいさかいを避けるために他に転居することを決意し、申立人も本件建物を他に譲渡することになつて右千枝子と相手方の間の溝は深まり、相手方は右金員を受取らなくなつたので、申立人はこれを地代として供託している。
ところで、申立人は、前記認定の土地使用承諾書作成のときに本件土地について賃貸借契約が成立した旨主張するが、右承諾書は、冒頭に土地の表示、坪数、使用権者の欄が設けられ、それに続いて「自分所有の上記土地を貴殿に於て家屋建築敷地として使用することを承諾する。」との文言が印刷されているもので、前記各欄には本件土地の所在、地番、地積及び申立人の氏名が記入されており、末尾の年月日欄に、昭和三二年六月一日、土地所有権者又は管理人の住所氏名欄に、相手方の住所氏名を記載し、その名下に押印して作成された書面であつて、それ自体は必ずしも賃借権設定の趣旨を表わすものとは認められず、また、右承諾書作成に際し、当事者間において、地代その他の借地条件についての取決めがなされた事実を認めるに足りる資料はない。したがつて、昭和三二年六月一日に賃貸借が成立したという申立人主張は採用できず、かえつて右は専ら相手方と申立人の妻千枝子との実親子間の生活扶助的関係に基づいて、本件土地を無償で使用することを承諾する趣旨であると認められ、当時の申立人の本件土地利用は使用賃借に基づくものであると解するのが相当である。
また、本件建物建築後現在までの本件土地の利用についても当事者間で地代その他の借地条件について取決めがなされて、明示的に賃貸借契約が締結された事実を認めるに足りる資料はない。なるほど、前記認定のとおり、申立人の妻千枝子と相手方のいさかいの際、地代のことが口に出て、その頃から月々金一〇〇〇円宛持参するようになつたものであり、賃料の点だけから考えれば、その金額は、当時の本件土地の賃料として必ずしも不相当に低い額であつたともいえない。しかし、本件資料によれば、右金額は前記千枝子が独りで決めたもので、申立人も当初は知らず、またこれが地代であると明示して授受された事実はなく、勿論その趣旨を示すような書面も存在しない。また、相手方は現在六六才であつて妹娘とその子供と三人で、相手方所有のアパートから得る収入等で生活しており、前記金員は、前記千枝子が、右の妹の子供に月々与える小遣いと一緒に持参したものであることが認められ、前記千枝子と相手方との関係から考えると、たとえ両者間にいさかいがあつたとはいえ、右金員は小遣いとして貰つたものであるという相手方本人の供述も直ちに排斥することはできず、右金員が、黙示的に本件土地の地代の趣旨で授受されたものとも認めることはできない。ことに、前記認定のとおり本件建物の建築にあたつて、相手方が多額の金員を援助していることから考えると、前記の金一、〇〇〇円宛を授受し始めたのはその後約七年過ぎてからであるとはいえ、これが本件土地使用の対価であると解するのは極めて不自然であり、相当ではない。その他本件全資料によつても、申立人の本件土地の利用関係が賃貸借契約に基づくものであると認めることはできない。(福嶋登)